宗教について 〜 人の生と死を考える 注39

公開: 2023年3月14日

更新: 2023年4月9日

注39. 利他主義

「もともと人間は利己的な性質を持っている」と考える利己主義の思想は、自己中心的であり、古くから人間の持つ『業』(ごう)であると考えられてきました。それに対して、宗教は、その反対に利他的な行動を取ることで、人間の社会を、全ての人にとって良いものにすべきであると教えます。つまり、自分が他人からそのような行為を行われたとき、不快に感じる行為を、他人に対して行ってはならないとする思想です。社会の構成員である全ての人々がそのように行動すれば、人間社会は全ての人々にとって、生活しやすいところになります。

他人を差別しないことや、他人に暴力を振るわないこと、他人の所有物を取らないことなどは、宗教の教えが戒(いまし)める、利他的な行動の代表的な例です。これによって、個人の間でしばしば生じる、必要のない利害の衝突を減らし、結果として「生き易い」社会を作ることができます。この考えを前進させると、「他人の尊厳(そんげん)を認めて、礼儀正しく接する」ことや、「他人が何かの問題で苦労していたら、その問題を解決する手助けをする」こと、さらに「社会全体のために、自分の犠牲を厭(いと)わず行動する」ことなどが、重要視されます。、

{情けは人の為にならない」と言う人もいますが、「他人を助けるのは、助ける他人のためではなく、自分自身のために手助けをする」のであると、考えるように教えるのが、利他主義の思想です。これは、簡単にできるものではありません。そして、これは、倫理学者が言う「倫理的な行動」とも違います。倫理学では、行為の実践の結果、期待した結果が得られなければ、その行為は倫理的(善い行為)とは言いません。宗教では、利他的で自己犠牲を伴う行為は、「善い行為」と認められるところが、違います。

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